学生時代に足を運んだ展示会で、貴金属をコアマテリアルとしてさまざまな工業製品を生み出している当社の業務内容に興味を抱いたのが、入社のきっかけです。貴金属の特性と希少性に着目して、有用な技術を開発するリーディングカンパニーとしての田中貴金属に大きな可能性を感じました。
貴金属は、一般的には装飾品のイメージが強いと思います。しかし、半導体のメモリーやコンピュータのハードディスク、自動車部品、医薬品など、さまざまな製品に組み込まれています。当社の技術は、ビジネスや生活のあらゆる場面で役立っているのです。
私が今、研究開発に取り組んでいるのは、燃料電池用の触媒。実は当社は、燃料電池用触媒で世界シェアNo.1のメーカーなのです。燃料電池は、水素と酸素の化学反応によって電気を作ります。地球温暖化の原因とされる二酸化炭素、酸性雨の原因とされる酸化窒素を発生させることなく、水だけを排出する「究極のクリーンエネルギー」とも言われるものです。その反応効率を高めるための触媒を開発することは、「地球の未来を創る仕事」だと、私は考えています。
大学院では、触媒をテーマとする研究室に所属して、木材や新聞紙、砂糖などのバイオマス資源から水素を簡便に取り出す研究を行っていました。試行錯誤の結果、水素を収率ほぼ100%で取り出す触媒を見つけた時は、飛び上がって喜ぶほど興奮しました。その時の研究成果が財産となって、今の私に自信と意欲を与えてくれます。
また、研究開発はどのようなものであれ、結果が思うように出ない時や、自分の目指している方向が正しいのかわからなくなる場合があります。誰もやったことのないことを成し遂げようとすればするほど、その度合いは大きくなるものです。東工大で実験に明け暮れた時間は、最後までやり通す姿勢や忍耐を教えてくれました。研究室で得たものは、迷いや不安を抱いた時の心の支えとなっています。
私自身、就職活動を経験して気づいたのは、東工大生はまじめで優秀である半面、自分をアピールするのが不得意であるということ。実際に私も、なかなか内定をもらえずに焦った時期がありました。でも、自分が必要とされる場所、自分にぴったりの仕事は、だれにでも必ずあります。期待通りの結果が得られなくても、たまたま相性がよくなかっただけかもしれない。たとえうまくいかなくても、早めに気持ちを切り替えて新たな出会いに意欲的になるほうがチャンスは広がるはずです。
みなさんは人に誇れるものを必ずもっているのですから、雑音に振り回されることなく自分の気持ちに正直に行動してください。